ピラティスを始めたジョセフ(ジョー)・ピラティス氏がどのようにスタジオで教えていたのか、それがどのように受け継がれ、現在のピラティスの隆盛に至る礎が築かれたのか。
最近読んで面白かったのがこちらの本『Caged Lion – Joseph Pilates & His Legacy』。マニア(先生方〜!📣)向けですが、ジョセフ・ピラティスの晩年やスタジオ継承の背景といった、今のピラティスの隆盛の礎となった時期について書かれています。
その当時、まさにピラティスを生徒として学びながら、ピラティス夫妻と親しくなり、その後、弁護士でもあることから、スタジオ存続に奔走することになったと言う、稀有な立場から綴られた1冊です。
著者はピラティス夫妻の若き友人の弁護士の方。いわゆる回顧録なのでとても読みやすいです。また、ピラティスの先生方であれば知っている “歴史上の人物” の名前がたくさん出てくるので、それも含めて興味深く読んでいただけると思います。少なくとも私は、色々な理解のピースがハマった感じがしました。
この本が貴重なのは、ちょうどみんなが知らない、または「客観的」に語れる人がいない時代のピラティスについて書かれているから。これまで語る人も、語れる人もいなかった歴史の一部が書かれていると言えると思います。
具体的には、ピラティス氏の最後期(スタジオ内外での姿)〜ジョー死後のNYでのスタジオ経営(+クララの役割)〜ピラティススタジオがアメリカ各地にできていく初期の歴史〜ピラティスを商標として認めるかどうかの歴史的裁判、という部分を書き記しています。
この本に書かれているより後、つまり「ピラティスエルダー」と呼ばれている、ジョーから直接ピラティスを学び、その学びを伝え始めた方々を経由したジョーについての話や、彼ら自身のピラティスとの出会いや生き様というのは、ニューヨークにいると、または世界各地で、時々諸先輩方から聞く機会があると思います。
でも、エルダーたちが「エルダー」になる前、1970年代前半までのピラティスの歴史というのは、なかなか聞ける人がいないのです。

著者は、ジョーの生徒であり、晩年のピラティス夫妻が親しくしていた友人で弁護士のジョン・ハワード・スティール氏。ジョーが亡くなる前、病院で最後に直接会った人物で、死後にジョーの妻・クララの生活を支援し、NYのスタジオを維持し、継続させるために尽力した人でもあります。
書評などを見ると極めてこの本が評価が高いのは、前述の通りこれまで語られてこなかった時代を扱っていること、そして漠然と疑問に思っていたことへの回答が示されているからだと思います。
例えば、
・なぜジョーがContrology(コントロールの科学=コントロロジー)と呼んでいたのにピラティスと呼ばれるようになったのか
・クララ・ピラティス(ジョーの妻)はスタジオ経営・指導をしていたのか、ジョーの死後はどのように経営・指導したのか
・マジックサークルがなぜマジックサークルと呼ばれていたのか
・エルダーたちがエルダーたちになった歴史
・ピラティスが全米に広がっていった経緯
・歴史的な「ピラティス」商標裁判について、当事者ではない弁護士の視点から見た、経緯やポイント、登場人物の関係性
などなど。
気になりますよね(笑)!
いつか余裕があったら具体的にご紹介したいと思いますが、英語の読める方はぜひ手に取ってみてください。個人的には、著者が弁護士だったこともあり、特に裁判周りの記述については、信頼できると思います。また、それ以外の部分も、この本を読んだことで、欠けていたピースが埋まり、歴史と今日に至る経緯について、理解が深まった気がしました。
ただ、前述した通り、貴重な歴史の話であると同時に、その内容はハワード氏の記憶に基づいて書かれた「回顧録」です。それでこそ、生きた記録であり、価値があるものなのですが、同時に、その正確性を検証できる人がほとんど存在しない以上、一方的な見方である可能性を考慮しながら読む必要があります。
中には、当時では一般的だったであろう、男性による女性観に基づく発言だったり、すでに亡くなっていて反論ができない方々について疑惑を生んだり評判を傷つけるような記述もあります。
ご本人も、「伝記でもあり、歴史でもあり、思い出話でもある」と明記されています。色々な意味で、読み手としては、「歴史書」だとは考えないことが大事だと思います(それゆえ、冒頭で「客観的」とかぎ括弧付きにしました)。
あくまでもその時代を感じ、大枠のピラティスの歴史を理解する一助とする、という態度で読むのがおすすめの1冊です。
それでも、ピラティスを受け継いできた実践者たちではなく、夫妻の良き友人としてピラティスをある意味守ってきた人による物語ですので、やはり価値のある1冊。私は、自分がピラティスの先生として何を伝えていきたか、より明確に掴むことができた気がしています。エッセイとして書かれているのでとても読みやすいのも魅力です。関心のある方々、特にピラティスの先生方にはお勧めしたいと思います。
著者のウェブサイト:https://www.johnhowardsteel.com
ニューヨークでピラティスを🗽
http://www.typilatesnyc.com
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